梅雨の中休み

隣の町に築300年の江戸時代の名主屋敷をそのまま保存している古民家がある。

昨日は、その古民家で、この時期に毎年やっている「風鈴まつり」の最終日だった。

雨の「岩戸」が開いたかのような五月晴れ、ゆっちゅの好きな風も少し強めに吹いている。

1年前と同様、バァーバと三人で出かけた。

途中、田んぼの畦や農道脇に紫陽花が列をなして咲いている。

その道を通って、片道一時間半かけて歩いた。

少し伸びた稲の苗が一面に広がる水田の上を、折からの風が薙ぎ倒すようにわたってゆく。

また、茶畑があちらこちらに点在していて、そこに立つ防霜ファンが、勢いよく回っている。ゆっちゅの大好きな「クゥクゥル」だ。

ゆっちゅは大好きな風を顔いっぱいに浴びて、大はしゃぎし通しだった。

 

古民家に着くと、折からの風でたくさんの風鈴が音を奏でている。しかし、訪れた人びとのざわめきによって度々かき消される。

古びた家の中に入ると、ゆっちゅは、畳敷きの部屋やふすま、障子、細く続く廊下に興味を感じて、ひとりで歩いた。

珍しい風鈴や異国の風鈴が展示された渡り廊下や蔵の中を見てまわる。

その中で一番ゆっちゅを喜ばせたのが、数え切れないほどのアルミ缶の風ぐるまだ。

折から吹く風でくるくると回り、それが陽の光を弾いてキラキラ光るものだから、ゆっちゅは「クゥクゥル  クゥクゥル」と手をたたいて大喜びする。

外に出ると、屋敷の周囲は、竹林と大きな樹木で囲われ、水路が張り巡らされている。

勝手口近くにあった手押し井戸ポンプで、水を出してやったら、水に触ってご満悦の様子だ。

築山を配した庭の大きな敷石に目を止め「イッシー  イッシー」と小走りするゆっちゅについて行くと、静寂な空気が漂う中、折からの風で、竹で作られた風鈴は柔らかい音を奏でた。

その奥に進むと、ゆっちゅの大好きな「クゥクゥル」、水の力で力強く回る水車があった。

水車小屋に入ったゆっちゅは、ジィの説明を聞いて、分かるのか分からないのか、分からないが、神妙な顔で水車の心棒が回るのに見入っていた。

 

帰りがけに、去年も買ってあげた、ゆっちゅの大好きな風ぐるまを買ってやろうと探したが、見当たらなかった。

帰宅の途についてもまだ、折からの風がさまざまにいろいろなものを吹き動かすので、ゆっちゅは飽きもせず眠りもせず、乳母車に揺られながら「五月の風」にふさふさの髪をなびかせて気持ち良さそうにしていた。