ジィの胸は「アシ」

「エ~へっへっへっ」と喉にかかったしゃがれ声で、ゆっちゅが笑うと、家族のみんなは、なんか悪代官の笑い方みたいと言ってマネします。すると、ゆっちゅが調子にのって、またやります、「エ~へっへっへっ」

 

喉頭が下がって口呼吸が可能になってきたのだろう。

ゆっちゅ語を交えながら、「シーくるくる」という言葉が連発される。発語の嵐の前触れを予感させる。

川での石投げも、じぶんで石を探し、それも大きいのを選んで投げる。しかも、立って投げるようになってきた。

階段の上り下りもしっかりした足取りを見せるようになってきた。

 

昨日、ゆっちゅがこんな行動を見せた。

じぶんから床に寝転がり、ジィを見上げて誘うように笑いかけてきたので、顔を近づけるとじゃれかかってきた。

ちょうどテレビで見る、ライオンやヒョウの子供たちが狩りの練習と言われる遊びの中でみせる行動を思い起こさせた。

これまでが、主に立って行う行為に集約されていたゆっちゅの行動パターンが三たび水平方向に展開していると思った。

二回めは、河川敷の野っ原でハイハイをしたときで、楽しそうに遊び感覚でやってるなと感じたものだ。

 

昨日、ジィの胸をゆび指して「アシ」と言う。

「そこは、ジィの胸」と教えて、すぐにゆっちゅが意味する「アシ」は、人体の部分の名称などではなく、機能的な役割を指しているのだろうと思い至った。

ゆっちゅは、きっと今、「アシ」と「はしら」を分節しようとしているのだ。

電柱、カーブミラーや街灯の支柱、門柱などを見かけるたび「アシ」と呼称する一方で、橋の下にやってきて、上を見上げてゆび指して「ハシ」と呼称したのを聞いて、ゆっちゅが橋桁と橋の渡し部分を分けていることに、ジィはようやく気づいた次第である。

「アシ」と「はしら」の分節は、構造と機能の区別にかかわっており、ゆっちゅが言語体系を理解するうえで、大きな分岐点にさしかかっていると思われる。

 

ゆっちゅは最近、こんなポーズをする。

腰を折ってまえかがみになつて、顔は上げて前方を見、右の手の掌を前方に突き出し「さよなら」の手を振るポーズ。

同様な体勢で、両の腕を突き出し、両手の掌を自分に向けて「おいでおいで」するポーズ。

いずれも遠くの物や人へのコミュニケーションらしい。