クルクル画伯
クルクル画伯は青色が好きだ。
町の子育て支援センターで、ゆっちゅが絵を描きだすと、先生たちから「画伯」と呼ばれるそうだ。
しかし、家では「らくがき小僧」だ。
「クルクル、クルクル」と呪文を唱えて、青色クレヨンで螺旋を描きまくる。床に襖にガラス戸に。
呆れ顔で、ばあばが「ゆっちゅ、ダメじゃないの」と言うと、ゆっちゅは「あっララ~ァ⁈」と応えて、にゃっと笑う。
「あっララ~ァ⁈」は、失敗を誤魔化す力を持つゆっちゅの言葉だ。
磁石でくっつくダーツがあって、それでゆっちゅと遊んでいて、ジィが失敗すると、それを見てゆっちゅは即座に「あっララ~ァ⁉︎」とくる。
我ながら恥ずかしさがこみ上げれくるほどに、絶妙な抑揚をもった言い方をする。
元はと言えば、クレヨンを買ってやって、カレンダーの裏に書かせ始めた頃に、はみ出して床に書いてしまった時、大人たちが遠回しに注意する意味で、「あららー」と言った。
ゆっちゅは、「ダメ」という言葉を聞くと、失敗したと思い癇癪を起こす。
そこで、癪に触らないように大人が気遣って「あらあら、そんなことしていいの、ダメじゃないの」と、遠慮がちに使ったのが始まりだった。
「あららー」が失敗や、してはいけないことをしてしまった時に使う言葉だということは心得ていることは、ジィがダーツを外したときに的確に発していることからも分かる。
しかし、ゆっちゅ画伯が「クルクル画」を作成するときは、画用紙を飛び出し壁や扉や柱がキャンバスになる。
「OKだよね」というように、「あっララ~ァ⁈」と言って、にゃっと笑う。
ゆっちゅが帰った次の日、ばあばがせっせとお掃除している。