魔法のつえ

昨夜は、ゆっちゅがジィの家からよくさんぽに行く河川敷へ、1,500発の花火が打ち上げられるのを見に行った。

いつもの土手沿いの道は、提灯が灯り、見物する人で賑わっていた。

ゆっちゅは、乾燥した夜空を渡ってくる花火音の波動に恐れをなして、ジィに抱っこし、ときどき目をそむけ、しがみついた。

河川敷に下り、投光器に照らされて一際鮮やかな緑の絨毯のように浮き出した、綺麗に刈りそろえられた草地に降り立ったゆっちゅは、ミストシャワーの大きな扇風機をいち早く見つけて「クルクル」と言って、ジィの指をつかんで、そこへ行くと言って聞かない。

ミストと強い風を浴びた後は、出店のきらびやかな光や見物人の雑踏、何より大きな花火の炸裂音から遠ざかろうと、足元が不案内な暗い中を、大きな橋の下の暗がりへ向かって一人で歩いて行く。

ときどき振り返って花火を見て、低く小さく弱々しい花火だと、拍手して喜んだ。

 

花火が終わるまで、何度か会場内に抱っこして連れ戻したが、大きな橋の下の暗がりへ行こうとし、行ったり来たりしているうちに、最後の打ち上げの連弾も終わり、見物人も三々五々と家路へ向かう人の群れのなかに、家族づれの小さな子が、夜店で買ってもらった色鮮やかな光を放ってクルクル回るおもちゃを手にして帰って行くのとすれ違った。

そのことをママに話したら、ゆっちゅにも買ってやると、パパと二人して祭り会場に舞い戻っていった。

ジィの家の前で待っていたが、土手の提灯が一つ一つ人の手で消されてゆくのを見ているうちに、ゆっちゅがまた祭り会場に行くといって、今度は土手道の歩道を一人で歩き始めた。

そこはやっとひとり歩きができるようになった頃からよく歩いてきた歩道で、今でもそこを歩くと道祖神や鮎を祀った石碑がどこにあるか、ゆっちゅは承知している。

しかし、今は沿道の提灯もひとつまたひとつと消され、会場のステージも解体作業が始まり、照明も次第に落とされ、暗さを増す中、ゆっちゅはつまづきもせずしっかりした足取りで歩いた。

河川敷に下りる20段ある石段も自分で下りると、ジィの手につかまりながらも下まで下りて、祭りが終わっても、名残を惜しんでいる若い姉ちゃんや兄ちゃんたちがたむろっている中を、ゆっちゅはどんどん歩く、歩く。

まだ開いている夜店の方ではなく、どういうわけか、解体作業の最中のステージや大きな扇風機がある方へと、ゆっちゅの足は向く。

復習するかのように同じコースをたどって、大きな橋の下のに来たところで、パパとママに出逢い、手に持つミラーボール&ディスコサウンド付きのおもちゃを渡されたゆっちゅは、たちまち虜になった。

折しも、薄暗い橋の下、ゆっちゅの手から放たれるミラーボールの光は、赤・青・緑の光のつぶてが群れをなして橋桁や橋の天井をぐるぐる走り回り、それと同時に短いフレーズで繰り返し熱く力強いアフリカ風のディスコサウンドがかなりの音量で響き出した。

一世を風靡した伝説のディスコ「ジュリアナ東京」もかくやあらん、ゆっちゅの手にしたおもちゃは、魔法のつえだ。

もちろん、ジィの家も魔法をかけられた。