「キレイ」
火曜日のことである。
地面の砂や土を触って、手が汚れると手を差し出して「キレイ」と言う。
ジィはゆっちゅの手の砂や土を払ってやる。
そして、「こうやって、手でパンパンやるんだよ」と手を叩いて見せると、ゆっちゅも同じようにする。
台風一過、秋を感じさせるうろこ雲が空一面に広がっていた。
「ゆっちゅ、空を見てごらん、雲がキレイだよ」と言うと、ゆっちゅが空を見上げ「キレイ」とひと言。
家の建築現場では、「アシ、いっぱい、イチ ニ サン シ ゴ」と興奮して叫び、車を見つけると、ナンバープレートをゆび指して、読むように催促する。
空き地で石拾いをし、昨日の雨でできた水たまりに、ジィが石を投げ入れたら、それを見たゆっちゅが石を拾ってジィに渡し、同じように投げ入れよと、次から次へと石を拾って渡してよこす。
「ゆっちゅもやってみな」と言っても、自分ではやろうとしないで、ずっとジィにばかりさせる。
トンボがたくさん飛び交っている。
その中の1匹がゆっちゅの胸に止まった。
ゆっちゅはおびえた様子も見せず、じっとしていた。
トンボが去った後、止まった場所を手で触って確認していた。
石投げがしばらく続いたが、クロネコの宅急便の車が通りかかったら、ゆっちゅの心は、石と水たまりから離れた。
いつもの畑に行くと、トンボが茄子の添え木に止まっていたので、それを捕まえて、ゆっちゅに見せた。
ゆっちゅは、にこにこして見ていたが、触ろうとはしなかった。
遊園地に行って、お絵描きをした。
ゆっちゅの引く線が、何か形を成しつつあるように見えた。
そして、ジィが書いた「へのへのもへじ」の「の」をゆび指して、何やらわかった風な仕草をしていた。
両足ピョンピョン跳びをして、遊園地の入り口にある車止めの鉄パイプの柵につかまり損ねて、額と顎をぶつけて泣いた。
抱きあげて、なだめながら家路についた。