台風のツメ跡

台風で水をかぶった河川敷の風景は一変した。草木はなぎ倒され、流木があちこちに打ち上げられている。

台風が来る直前に刈り整えられた草っ原だけは、水が引いた後も以前と変わらず青々としている。

それが、まだダムの放流が続いているため茶色く濁った水や、むき出しになった河原の石の群れと奇妙なコントラストをなして台風が残していった荒涼とした風景を際立たせている。

そんな川の様相を見下ろしながら土手の道を歩いて、ゆっちゅはどんなことを感じていたのだろう。

川原に降りたがったゆっちゅに、流木や泥をかぶった草っ原に注意を向けさせ、台風の話をして「お天気が良くなったら来ようね」と言うと、駄々をこねることはなかった。

だが、ゆっちゅがジィの言葉を理解したわけではあるまい。

ゆっちゅは雰囲気を感じ取ったのだろう。

そこに来るまでは、目についたもので、見知ったものはことごとく言葉にし、その多くはまだゆっちゅだけが理解しているものだが、通りかかる車のナンバープレートの文字と数字を読み上げたり、ジィに聞いたり、忙しくしゃべりまくっていた。

そんな中に「テッチョ いこう」や「カンカン いこう」といった意識されたものもあれば、意識には上がってきているものの、言葉にうまくできないものもあるのだろう。

しかし、なんといっても外界から押し寄せてくるものを感受している初源的なセンサーが働いている層が、意識の背後には控えている。

台風の残した痕跡は、ゆっちゅの深層のセンサーにも、なんらかの痕跡を残すのであろう。

それもまた、ゆっちゅの生きている世界の出来事なのだから。