「パブロフ的」コンテクスト〜橋

ゆっちゅに知性の萌芽を感じたのは、橋脚を「アシ」と呼んだ時だった。

 

ゆっちゅの「踏み石」がある橋の下は、トンネル状になっていて、よく風が通り抜ける。

踏み石は、大きな橋の橋脚の一つが分厚いコンクリートの壁のようになっている側にあって、傍らを河川敷に、土手を越えて車が乗り入れられるように道がついている高みにある。

南に向かって川が流れてゆくのが見下ろせて、その先には、さらに一つの橋と鉄橋を渡ってゆく電車を見ることができる。

 

「イシ」「クルクル」などの言葉を使うようになっていた頃だったが、自分の足をゆび指して「アシ」と言い始める。

「アシ」という言葉を使いはじめると、橋脚のコンクリートに触れて「アシ」と言うようになり、電柱もカーブミラーの支柱も、家の柱や門も「アシ」と呼ぶようになる。

橋に至っては「ハシ」と言っているのか「アシ」と言っているのか判然としなくなる。

しまいには、ジィの胸を叩いて「アシ」と認識するに至る。

そして「アッシー・クルクル」「シー・クルクル」というゆっちゅ語が生まれる。

「アッシー」「シー」は、「アシ」からきているのは間違いあるまい。

「アシ」はもちろん、ゆっちゅ自身の足から来ている。

自らの足で立って歩けるようになって、音声言語によって世界が分節化され、ゆっちゅは世界を認知しはじめたのであろう。

アッシー・クルクルという言葉を機に、ゆっちゅは、青や赤という色彩語を使うようになり、数字も読みはじめる。