一枚のイチョウの葉
おもちゃ箱のなかにあったイチョウの葉っぱを摘みとって、それをジィに手渡しながら柏手を打ち腰を折って「パチパチ」と言った。
それは神様を表すゆっちゅのボディ・ランゲージなのである。
それは昨年の冬の訪れも間近な、空が青く晴れ渡った日だった。
時折吹く風に、それを待っていたかのように一斉にイチョウの葉が舞い散るのを、さんぽの途中ゆっちゅとふたりで神社の境内でしばらく見ていたことがあった。
竹トンボのようにクルクル旋回して落ちてくるイチョウの葉の乱舞に、ゆっちゅは歓声をあげて見入っていた。
そのとき持ち帰った一枚であった。
それをゆっちゅは記憶していて、おもちゃ箱のなかのイチョウの葉を見て、そのときの記憶がよみがえったようだ。
だから、ジィに渡し「あのときの葉っぱだよ」と伝えるために柏手を打ったに違いない。
そのときゆっちゅはどんな映像を思い浮かべていたのだろうか。
残念ながらジィはそのとき、イチョウの葉が舞い散る様を思い浮かべることはなかった。
ゆっちゅが記憶を使ってコミュニケーションを取っていたことに感動してしまったからだ。
しかし、ジィが気づかないだけで、ゆっちゅは記憶を使ったメッセージを実はたくさん発信しているのではないかと思った。