感情のパターン

機嫌がよくなかったゆっちゅは、大好きな「赤いバス」を投げ捨て、それを拾って自分に渡せと、ジィをゆび指して命令?した。

取って渡すと、それを今度はジィに向けて投げた。

また、ジィをゆび指して取ってよこせと命じた。

ジィは命令を無視し、ゆっちゅの顔を見つめた。

ゆっちゅのイライラは暴走しはじめた。

今度は咥えていたおしゃぶりを取って投げ捨てた。

ジィは「投げない」と毅然と言って、それを拾って渡した途端に、ゆっちゅは再び投げ放った。

そして、再びジィをゆび指して泣きわめき出した。

ジィは「自分で拾いなさい」と言って取り合わなかった。

ゆっちゅは一層はげしく泣きわめいて、ジィが取れと言うように盛んに人さし指を突き上げて、ジィに迫ってきた。

ジィは黙視を続けた。

ゆっちゅは涙と鼻汁で顔面を洗ったようになってさらに激しく泣きわめいたが、ジィはただ「じぶんで拾いなさい」と言うだけで取り合わなかった。

そのうち、面と向かい合っているのに耐えられなくなって、泣きながらジィに抱きついてきて、それでも放置されたおしゃぶりの方をゆび指してジィに取るように訴えた。

ジィは優しく抱きながらも、「じぶんで拾いなさい」と言うだけで取ってやらなかった。

ゆっちゅも強情にジィに抱っこされたまま泣きわめき続けた。

30分も経っただろうか、ゆっちゅも泣き疲れて眠りに入りそうな様子だったので、ばあばがごみ収集車に載せて届いてくれたおしゃぶりを取ってゆっちゅの口にくわえさせて、「もう投げちゃダメだよ」と言った。

ゆっちゅは泣きじゃくりながらそのまま寝た。

寝ながらもしばらくはしゃくりあげていた。

 

夜になってゆっちゅを家に送り届けた。

家に着くころには目を覚まして、夕食を食いそびれたゆっちゅにせんべいやジュースを食べさせているうちに機嫌も直り、しばらく遊び相手をしていたとき、ジィの背中の方で咥えていたおしゃぶりをぽぃっと放り投げてにゃっと笑い「投げない」と言った。

すかさずジィはそれを拾って笑いかけてゆっちゅに渡した。

 

ゆっちゅとジィの間にある支配と服従、保護と依存の感情のパターンに乱れが発生した一幕であった。

しかし、暴走してゆく感情を調停しようとするものが働き出すと、硬直しかかったシステムはふたたび循環しはじめ、平衡を取り戻し安定してゆく。

調停すること、それを愛と呼ぶ。