大きな声で

ゆっちゅは、人を遠ざけるとき「ジィジ あっち行くよぉ〜」「ばあば あっち行くよぉ〜」と言う。

関心があるものに集中したいときに、邪魔をされると「○○あっち行くよぉ〜」と言うようになった。

これは、ゆっちゅに自己中心的な意識が生まれてきた証しのように思われる。

また、散歩をしていて雨上がりにできた水たまりを見つけると、ゆっちゅは近づいて行って入ろうとする。

それが分かるので、先手を打って「入っちゃダメだよ」と何度も注意をする。

初めは、入っちゃいけないと思っているのか、水たまりの手前まで行って踏みとどまったり、迂回したりするのだが、すぐに誘惑に抗し切れなくなって「まゝよ」とばかりに声をあげ、笑いながら突進して行く。

バシャバシャと足を踏みならして水しぶきを立てて大騒ぎする。

その日は、そのあと河川敷グラウンドへ行った。

そこには水飲み場がある。

垂直方向に吹き出す蛇口があり、ゆっちゅがどうしても水を出してほしいと意地を張って「お願いします」が出たので、少し出してやった。

それを上から押さえつけて水しぶきを上げる。

水が服にかかるのを注意されると、面白がって一層大はしゃぎをしてやる。

「もうお仕舞い」と言って止める。

止めると、「もう一回」と言ってわがままを言う。

それでも水を出さないでいると「お願いします」が出る。

そんなふうに水を止めたり、出したりを繰り返す。

「服が濡れちゃったからもう終わりだよ」と言って、蛇口を閉めたら、ゆっちゅが大きな声を張り上げた。

自分の思い通りにして欲しいと言葉にしたのだろう、出すとか何とか言ったのだろうが聞き取れなかった。

そして叫んだあとで「大きな声で」と言った。

自分は大きな声を出したよ、と言ったつもりなのだろう。

ゆっちゅは大きな声を出す自分を感じていたようだった。

 

この言葉は初め、フロから上がるときに、ジィが使ったものだった。

ゆっちゅに、フロから上がるとき「あがるよ」と言ってママを呼ぶことを教えようとした。

初めは声が弱々しくママまで声が届かなかった。

そのたびに、「もっと大きな声で言ってごらん」とアドバイスしていた。

たまに大きな声が出せたときは、自分自身で感動して目を輝かして、「おっきな声」と言うようになっていた。

「おっきな声」は、ゆっちゅにとって自分はこうしたいという意志の発露とつながっているのかもしれない。