雨の音がする

その日は雨が降ったり止んだりする天気だった。

フードのついた青いポンチョの雨がっぱを着てゆっちゅは初めてと言っていい雨の中の散歩に出かけた。

家を出たときは一時的に雨は降ってなかったが道路のあちこちに水たまりができていた。

ゆっちゅはうれしそうにそのうちの一つに目をつけると、そうっと近づいて行った。

まるで自分が近づいてゆくのを水たまりに気づかれると水たまりが消え去ってしまうのを恐れてもいるように。

でも本当のところは、水たまりに入ろうとするといつも「入っちゃダメ」と注意されるので、どこまで踏み込んだらその注意の言葉が飛んでくるのかと探っているのだ。

いつもなら注意の言葉が発せられ、それを合図に水を踏みつけて水しぶきを立てようとゆっちゅが目論んでいるのをジィは承知していた。

でも今日はゆっちゅが長ぐつをはいてきているので、ジィは黙認することにした。

ゆっちゅはいつもとは違う長ぐつで水を踏む感触を味わった。

止んでいた雨がふたたび降りだしたのを見てばあばはゆっちゅの傘を取りにアパートに引き返した。

ばあばが戻ってくる間もゆっちゅは次から次へと水たまりを踏みつけて歩いた。

ばあばがお気に入りの新幹線の絵がプリントさせた青い傘を持ってきたので、ゆっちゅは大喜びで傘をさして雨の中を歩いた。

並んで歩いていたばあばが、フードや傘にあたる雨音に気づいたゆっちゅが「音がするねェ たのしぃ  たのしぃ」と言うのを聞いた。

雨が降っている間、ゆっちゅは水たまりをふみ鳴らし、傘にあたる雨音を聞いて「音がするねェ たのしぃ  たのしぃ」を連発した。

やがて雨が上がって閉じられた傘を引きずりながら家に帰るゆっちゅの後ろ姿は寂しそうであった。