ユッケへおくる言葉②

叔父さんに買ってもらったラジコンの黄色いジープが故障して動かなくなってしまってから、ユッケは自らを「赤いジープ」と称して、たびたび赤いジープになる。

両腕を小脇に抱えて走り出す構えを見せると、腹に力を籠めて喉の奥から唸り声を響かせながら、片足で地面を蹴ってスリップをくりかえして、タイヤが空回りしている爆発的スタート直前の緊迫感を表すパフォーマンスがはじまる。

ユッケには黄色いジープを動かしていた時の記憶が色濃く残っている。

ユッケは黄色いジープが颯爽と走る姿よりも、でぼこ(でこぼこをユッケはそう言う)にはまってタイヤが空回りし後輪が砂煙を巻き上げる状態をめでた。

わざわさ障害物にジープを頭から突っ込ませ、後輪が空転し、行きなずむジープの様子を好んだ。

また雨上がりにできた水溜りを見つけると、水中の泥が溜まったところに黄色いジープをわざわざ置いてスイッチを入れて、ジープが身動きができず悪戦苦闘するという遊びをよくした。

そして、ある日、黄色いジープは力尽きた。

叔父さんに修理をお願いしたが、まだ戻ってこない。

そして、ユッケは待っている間に自らが黄色いジープの代わりになる遊びを編み出した。

失ったものを自らの身体で代用することを体得した。

記憶をもとに想像したものを表現するすべを、ユッケは学んだ。

その技術は、これから先、物事が思うようにならず落ち込んでしまったときには、立ちあがる力を呼び起こし、順調に行っているときには、更なる活力をもたらしてくれることだろう。