母なる海

ゆっちゅのスイミングが本格的に始まった。

毎週水曜日、迎えのバスが来る。

初日の昨日は、行きのバスは緊張していたが、帰りは大はしゃぎしていたという。

「先祖返り」という言葉がある。親に現れていない、祖父母の遺伝上の特徴が子に現れることを言う。

ゆっちゅは水の中で遊ぶことで、遠い過去の記憶を思い出しているだろうか。

広い河川敷の草っぱらの中を走り回わり、身体を全方位的に使って動くようになった。

ゆっちゅの背丈ほどある稲や麦に似た草むらに、草を浴びるように突き進んで喜んでいる。

 

われわれの遠い遠い祖先は、海から上がって陸上で暮らすようになったと言われるが、そのせいか、いまでも海辺に佇んで波の音を聞いていると、懐かしい心持ちがしてくる。

胎児は、母の胎内の、原始の海の成分と同じ成分の羊水に浮かんで、母の心臓の鼓動や腸のぜん動する音を全身で感じながら成長し、やがて耳で母胎の外の世界の音も聞くようになるという。

浜辺に寄せては返す波が奏でる音が、母の胎内で聞いた音のざわめきを思い出させて、遠い過去へとわれわれをいざなうのだろうか。

 

さんぽの途中に、小学校のプールがある。ゆっちゅが行くプールは室内にあるものだが、屋外にあっても、同じプールとわかるようでそばを通ると、「こっち」と指示をする。

そのプールも、授業に備えて掃除がはじまった。子ども達がたてる歓声や水音にまじって楽しそうに遊ぶ姿を目にする季節がやって来た。

その光景を見てゆっちゅがどんな表情を見せるのか、それが今から楽しみである。

4億2500万年前、動物は上陸を敢行したと言う。