めめこ

ビニールプールが、「カエルさん」から「クジラさん」に替わり、ひとまわり大きくなった。

「クジラさん」の振り上げられた尾びれからはシャワー・ミストだ出るゴージャスなプールに、ゆっちゅは遊ぶ気満々だ。

ひしゃくでプールのまわりにバシャバシャ水を撒き、立って片足で水を踏みつけたり、尻をついて両足をバタバタさせたり、両手で水を叩いたり、水しぶきを身体いっぱい浴びて、顔に水がかかるのも苦にしなくなった。

クジラの尾が反り返って半分ドーム状になっている、その青の洞窟に赤いエビの浮き輪に入って、ゆっちゅは好奇心に目を輝かせていた。

シャワー・ミストの下に頭を突っ込んで、顔中水だらけにして笑っていた。

 

青い空、白い雲、灼熱の太陽の下、水色のプールの青い海原で、5羽のアヒルの親子、赤いカニ、青いカバ、黄色や白の鯛やマンボウなどの魚たちと戯れるゆっちゅは、キラキラと輝いていた。


因みに、プールのことをゆっちゅは「めめこ」と呼ぶ。最初のカエルのプールは、大きく飛び出た二つの目と大きく開いた口でデザインされたものだった。

そして、最近「目」という言葉が分かってきたこともあって、「めめこ」が、ゆっちゅとのコミュニケーションでは通用するようになったのである。

 

しかし、ゆっちゅとの間で「めめこ」という言葉が成立するというのも不思議なことである。

ゆっちゅの経験から見ても、小さな青蛙を見ている経験があるとはいえ、プールにデザインされたカエルが実際の蛙と同じものだとは思いつくまい。

プールにしても、外で大好きな水遊びができるところといったぐらいの理解であろう。

近ごろ、風呂場でよく湯ぶねとお湯をさして名称を確認するようになったのも、プールと比較しているからかも知れない。

 

飛び出した大きな「め」がビニールプールの一部であることから、比喩表現の一種と捉えて、「目」という言葉がプール全体を代表するものとなった、と考えることもできるかも知れない。

しかし、それためには「目」が理解できていなければならない。ゆっちゅは、一体、何時どのように「目」を理解したのか。

 

ゆっちゅは「だるまさん」シリーズの絵本を持っていて、その中に、だるまさんの「目」が出てくるので、「だるまさんの目」は分かっているはずだ。

でも、実際の蛙の目と、ビニールプールの「め」の共通性は理解できているとは考えられない。

ゆっちゅが蛙を認識しているとするなら、その鳴き声でであろう。

やはり、そのプールの中で「メ」という音声が、ゆっちゅの脳の神経回路の中で、飛び出した「め」とつながったのだと考えるのが自然であろう。

水遊びの最中に、水鉄砲でその「め」を狙い撃ちすることを盛んに要求していたことからも、ゆっちゅは、その「め」の眼差しを感じていたのかも知れない。