日傘
ゆっちゅは、近ごろ傘をゆび指して「あめ(雨)」と言うようになった。
自転車で遠出をするようになって、見聞きすることも格段に増えきて、見る目も肥えてきたようである。
ゆっちゅを自転車で連れ出す時は、50分から1時間くらい走るので、夕方の少しでも涼しい頃合いを見計らって出掛ける。
日中の暑さがまだ残っている5時ごろ出発した時があった。
夕食の買い物をする女性が、日傘をさして歩いているのを、ゆっちゅは見つけて、すかさず「あめ」と叫んだ。
叫んでから変だと思ったようだ。
雨が降っていないことに気づいたようだった。
ゆっちゅは、「雨」は知っているし、傘も雨の中でさすことを知っている。
梅雨が明けるまで、連日に渡って雨が降り、毎日のように雨の中を傘をさして、アパートまで送り届けた。
ゆっちゅは抱っこされて、透明なビニール傘に雨が当たるのを喜んで見ていた。
梅雨が明けても、隣の玄関先の傘立てに傘が立て掛けられているのを見つけると、「あめ」と声を上げて傘を理解していることを訴えていた。
それなのに、その女性は西日が差す中を傘をさして歩いていた。
ゆっちゅの、雨と傘の経験則がこわれた。
日傘を前にして、ゆっちゅは「絶句」した。