寝技の研究

柔道の技には大きく立ち技と寝技という区別がある。

ゆっちゅにとって立ち技の習得の第一歩は、歩行であった。

歩けるようになると、河川敷グランドを走り回わり、階段の上り下り、坂道の駆け足、さらにそれにも飽き足らず、道無き道を求めて藪の中や石だらけの河原に足を踏み入れたがるようになっていった。

転んでも泣きもせず、転ぶのを恐れるそぶりも見せず、並走するジィの方に顔を向けたまま駆けまわるゆっちゅにハラハラしながら、よく転ばないものだと感心させられた。

外へ外へと意識が拡張して行くゆっちゅにとって、散歩はいわば外遊と言ってよく、柔らかく鋭敏な感覚に訴えてくる多種多様な刺激を通して立ち現れてくる外界とみずからとの関係をどのように構築してゆくのが良いのかを探究する学習の場であったと言えよう。

それが一転、ゆっちゅの遊びの傾向が室内のものに移行するようになると、ぬいぐるみにチューしたり抱きしめたり、寝転がってミニカーとお話ししたりして、ゆっちゅが次第に「おたく化」して行った。

そして、ジィに戯れる仕方も寝技の傾向が強まっていった。

それまでのゆっちゅは立った状態から抱きついてきたり、走ってきて反転して自分の身体をジィに預けるかたちで絡んできたのが、身体を横たえた状態で傍らに寝転んでいるジィの身体に絡みついたり、顔を近づけてきて何か思惑を持った目つきでジィの目の奥をのぞき込んだりするようになった。

寝技の傾向が高まると同時に、ゆっちゅの身体の操作性の自由度が一段と上がってきたように感じられた。

そして、ときどき「ハイハイ」をやって見せるようになり、ハイハイしながら以前よりも自由に身体を動かせることを実感して、みずからの成長を照れながら自慢しているようなアイロニカルな笑みを投げかけてくる。