お願いします

ゆっちゅの最後の切り札が、「おねがいします」というセリフである。

ばあばとふたりでゆっちゅを散歩の誘いに行く。

チャイムを鳴らすと、待ちかねたようにゆっちゅが迎えに出る。

しかし、「ジィジ あがる」とゆっちゅは家に招き入れようとする。

ばあばがすかさず「お散歩に行かないなら、帰るよ」というと、「ばあば あがるよ」と、ばあばも家にあがるようにゆっちゅは要望する。

それでも「散歩に行かないなら、じいじとばあばは帰ちゃうよ」と強情を張ってみせると、伝家の宝刀が出る。

「ジィジ おねがいします」

「バアバ おねがいします」

「おねがいします」と言うと、自分の思うように人が動いてくれることに味をしめたゆっちゅは、何かというと伝家の宝刀を抜く。

 

散歩とサイクリングが再開したことにより、ゆっちゅの外遊があらたな段階に入った。

散歩においては、イニシアチブを取るようになった。

ばあばが新たに散歩に同行するようになったことも手伝って、ばあばを案内するような言動も現れた。

ばあばにとっては初めてとなる山沿いのコースを歩いたとき、小高い見晴らしの良い場から見える鉄橋や橋、川、送電線の鉄塔など、ゆっちゅはすでに認めて知っているものを言葉にしてばあばの注意を引いたり、あるいは高速道路を走るトラックやトレーラーなどを指さして「はやいね」とか「すごいね」と言ってはばあばに共感を求めたりしていた。

ばあばが「どうやって帰るの」と心配しているのを知るや、ゆっちゅはパパといっしょに歩いて知っている道を先頭にたって歩いて道案内をした。

 

自転車に乗っているときも、ゆっちゅは「風が吹いてきたね」とか、鉄橋が見えてくると「電車来るかなあ」とか、踏切では「カーカー止まるかなあ」などと状況に即して、文章を使ったコミュニケーションを試みるようになってきた。

ゆっちゅに話しかけるとそれを復唱するようになったからではあるのだが、自転車を走らせながら目に見えるものや耳に聞こえてくるものや肌に感じるものを言葉にしてやると、即座にジィの言葉をまねるところは、ゆっちゅの学習意欲の高さの表れであろう。