日常と非日常

しばらくの間、さんぽコースを固定していたところ、ゆっちゅとの間に不思議と会話らしきものが成立するようになった。

例えば、踏切に行こうと言うと「カンカン」とか「カンカン いこう」などと言うようになり、行くと電柱を数えたり、枕木を固定する石を数えたり、電線や線路という言葉を使うようにもなった。

習慣というものが、言葉を習得するに際して大きな役割を持っていることがわかる。

ところが、その習慣を変えようとする時が訪れるのも、成長の証なのだろう。

 

先日、ゆっちゅは踏切を越えて、その先へ向かおうという意思を示した。

そういう場合は、抱っこをせがまず自分の足で歩く。

傍らを行き交う車のナンバープレーのひらがなを読んだり、電柱や葉、川など自分で識別できる物が目にとまると「でんちゅ」「はっぱ」「かわ」と言葉を発して確認してくる。

駐車している複数の車のナンバープレートを読むときには、一台のを読んで、隣のものも読もうとして読めない場合は「そっち」という指示語を使って、読み方を聞いてきたりする。

総じて、初めての場所ではゆっちゅは能弁になる傾向が見られる。

 

日曜日にママの仕事の都合で、ゆっちゅにとっては初めての場所であるコンサート・ホールに行った時もそうだった。

見知らぬ場所に、初めはおとなしくしていたが、次第に慣れてきてわがままを言い始めたので外に連れ出したところ、駐車場に停まっている車のナンバープレートを読み始め、ご機嫌になった。

そこに、お気に入りの宅急便のトラックがやってきた時は「キターッ」と言って大喜びをした。

駐車場に「青いカー、赤いカー、黄色いカー」があって、ナンバープレートに知っている文字があったにしても、そういう車とは異なって、その会社の宅急便の車を、見知らぬ街で遭った旧友を見るように、ゆっちゅは目をキラキラさせて撫で回すように見ていた。

しばらくして、運転手が戻ってきて、車は走り去った。

ゆっちゅは静かに「いった」とつぶやいた。